ICHI-ZEN  produced by 10decades

2024/05/08 00:23



みなさんは、梅の色味から熟度を見分ける方法をご存知でしょうか?
今回は写真を使いながらお伝えしたいと思います。

ちょっと長いですが、梅仕事をされる方には最後まで是非お読み取り頂けたら、と思います。

まず真ん中の一列、4種類の色合いから説明しますと一番上から
①ちょっとだけ早すぎる青梅(→表面に産毛が残っていたり、果肉をむいて中を見ると種の周りが白い)
②青梅(→産毛が落ちて表面に光沢が出てきている)
③完熟梅
④過熟梅
と私たちは呼んでいます。①から④へと樹上で熟していきます。
①、②の青梅で作るシロップやジャム、梅酒はスッキリ爽やかな酸味が楽しめて
③完熟梅や④過熟梅で作ると、酸味に加えてアプリコットや桃のような強い芳香が加わり、贅沢な味わいが楽しめます。

一般的にスーパーなどで市販されている梅は③完熟梅までです。
④過熟梅は柔らかすぎて流通の過程で傷んでしまうため市場には出回らないのですが、これが果皮ともに非常に柔らかく梅干し作りに最適な熟度と考えています。私たち個人経営の梅農家は、自分の農園で採れた過熟梅を使ってその場で梅を漬けることが出来るので、特に十郎梅では皮がほどけるように柔らかい梅干しが作れるのです。

また、梅は樹上である程度熟すと、自らエチレンという成熟ホルモンを放出して追熟します(専門用語でクリマクテリック型果実といいます)。
このエチレンによって細胞壁同士をくっつけている糊のような成分が分解され、果肉が急激に柔らかくなると共に、中に閉じ込められていた芳香成分が空気中に一気に放出され始めます。
青梅ではそれほど香りを感じませんが、過熟梅になると目眩がするほど強烈な、あまーい芳香が立ち上がります。弊社の梅干しは糖類など一切使っておりませんが、まれにお客様から”甘味を感じる”と言われます。おそらくその甘い香りが味として知覚されるのではないか、と考えております。その強い芳香はてんさい糖やきび糖などとの相性も良く、青梅のジャムやシロップで氷砂糖やグラニュー糖を使ったすっきり感とは全く趣の異なる、過熟梅のシロップやジャムは非常にリッチで濃厚な味わいを楽しめます。

さて、写真に戻って④過熟梅の左側にある赤く色づいた実についてです。
この赤い色は単なる日焼けで、日当たりの良いところに生えている実は、青いうちから日に当たる場所が赤くなっています。
梅の熟度とは全く関係がありません。味にも食味にも影響がありません。
ちなみに小田原では、白加賀という品種は青梅として出荷されるのですが、日焼けの赤色が出荷品に混入しているとJAの採点では減点されて販売価格が下がってしまいます。なぜ減点?と理由を確認しても、青梅なんだから赤い色が入っていてはいけない(え?屁理屈?)、とか料亭で甘露煮を作るときに赤い色が入ると汚くなる(わずかな梅の基準を全ての白加賀に適用しているの?)、とかで、減点の根拠があまりはっきりしません。どうも東京市場の商習慣みたいですが、その減点を避けるために曽我梅林の農家は、白加賀だけは実に日があたらないように上に枝を残すちょっと特殊な剪定をしたりして、実に赤い色が入らないように努力しています。

最後に、④過熟梅の右側においてある黄色(レモン色)っぽい梅の実は
実は①〜②くらいの青梅で収穫したものをしばらく放置しておいたものです。
一見すると完熟梅かな?と思ってしまうのですが、樹上で完熟させた③完熟梅はもっと濃い山吹色になります。
そしてこのレモン色の実は、ずっと実が硬いままで香りもあまり出てきません。
理由は、樹上でエチレンが爆発的に放出されるようになる(クリマクテリックライズといいます)前に収穫してしまっており、追熟がきちんとされないためです。
たまに売れ残った青梅がレモン色になったものを、完熟梅とタグを差し替えてそのまま売っている場面を見ることもあります。
完熟梅で梅干しやシロップなどを作ってみようとされる方は、梅の色味にどうぞご用心ください。

以上、長文になりましたが最後までご覧くださり、ありがとうございました。
どうぞ、バラエテイ豊かな梅仕事をお楽しみくださいませ!

参考文献:ウメ果実の樹上及び収穫後の成熟 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/49/4/49_4_601/_pdf/-char/ja